入学式 告辞(2023年4月5日 髙松 洋)
熊本高等専門学校の新入生、編入生、留学生の皆さん、そして専攻科へ進まれる皆さん、入学または進学おめでとうございます。教職員を代表して心より歓迎の意を表します。また、ご家族や保護者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。
本科に入学あるいは編入学される皆さんは、これから始まる新しい生活に対する期待で胸を高鳴らせていることでしょう。一方で、新しい環境に慣れることができるかという不安も感じているのではないでしょうか。特に、ご家族の元を離れ寮生活を始める皆さんの不安はひとしおではないかと思います。でも、大丈夫です。焦らず、友達を作って充実した毎日が送れるよう少しずつ慣れていってください。もし、困ったことがあったら遠慮なく先生方に相談してください。皆さんが立派なエンジニアになるための基礎をしっかり築けるよう、これからの5年間、私ども教職員ができる限りサポートしていきます。一緒に頑張っていきましょう。
専攻科に進学される皆さんは、これからの2年間、これまでの5年間で身につけた基礎をさらにレベルアップしていくことになります。さらに専門性を高めるとともに、研究を通して課題へのアプローチの仕方や解決の方法を学んでください。研究はうまくいかなかった時に一番いい経験ができます。何が問題なのかをじっくり見定めて次の一手を考える。これを繰り返していくと知らず知らずのうちに力がついていきます。ローマは一日にしてならずです。
昨年は、日本に高等専門学校という制度ができて60周年という節目の年でした。これまで卒業してきた先輩方の活躍のおかげで、高専は今、将来の日本を支える様々な人材の育成に対し大きな期待を受けています。その一つが、半導体に関連した産業に貢献する人材の育成です。特にこの熊本では、ご存じのように台湾の企業の進出をきっかけとして半導体関連産業を発展させようと盛り上がっていますので、私達熊本高専への期待は大変なものがあります。したがって、すでに昨年からこの期待に応えるべく全国に先駆けて様々な取り組みを行っております。もう一つの期待は、スタートアップ、すなわち、サラリーマンではなく自分で業を起こす人材の育成です。これについては、今年、国から環境整備のために多大な支援をしていただけることが決まっています。私達は、今年度から「熊本高専ファーストペンギンズプロジェクト」と名付けて新しい取り組みを開始します。ファーストペンギンとは、餌を求めて危険な海に最初に飛び込むペンギンのことです。私達教職員は、皆さんが新しいことに果敢にチャレンジするマインドを持った人になって欲しいと思い、皆さんがワクワクする場を皆さんと一緒になって作り、皆さんが自分の思いを形にできるような機会をできるだけ作っていきたいと思っています。是非、多くの皆さんの積極的な参加を期待しています。
さて、高専は「ものづくり」に貢献する人たちを育成することを使命としています。一昔前、日本は「ものづくり大国」と言われていました。ところが「ものづくり」において、日本の立場がだんだん弱くなってきています。それには様々な原因があると思われますが、「もの」が様々な「こと」に使われるためにあるにもかかわらず、「こと」への意識が少し疎かになっていたのが原因の一つだと思われます。いい「もの」を設計し作るには、これから皆さんが学ぶそれぞれの専門知識が不可欠です。一方、「こと」を考えるには、一つの道具としての「もの」だけでなく、システム全体を俯瞰してみる力がなければなりません。そのためには、社会、文化、歴史、倫理など専門分野以外の学びを通して様々なことに対する価値観やものごとの見方を自分の中で確立していくことが重要だと思います。是非、自分のセンサをいろんな方向に張り巡らせて様々な情報を得て、そして自分で考えるという習慣を身につけて欲しいと思います。
もう一つ皆さんにお願いしたいことがあります。「もの」は、人のため、「こと」のために作るわけです。ですから、人の心や思いを想像できるようにならなければなりません。いじめや誹謗中傷など人が悲しむことを平気でできる人に、いい「もの」が作れるとは思いません。皆さんには、是非、人の立場に立ってものごとを考え、人の気持ちに寄り添えるような思いやりを持った人になって欲しいと願っています。そうなれるよう心がけて毎日を過ごしてください。
3年もの間世界中が苦しんできたコロナ禍という暗いトンネルからやっと抜け出し、様々な活動が元どおり行えそうな気配になってきました。これからの学生生活が皆さんにとってかけがえのない、楽しく充実したものになるよう心から願っています。
本日は、熊本高専へのご入学、編入学、そして進学、誠におめでとうございます。
令和5年4月5日
熊本高等専門学校 校長 髙松 洋