熊本高等専門学校の新入生の皆さん、留学生の皆さん、編入生の皆さん、そして専攻科へ進まれる皆さん、入学および進学おめでとうございます。
ご家族の皆様をはじめ関係者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。
私は、この4月から熊本高等専門学校の校長を務めます髙松洋と申します。これからどうぞよろしくお願い申し上げます。
新入生の皆さんに申し上げます。いろんな選択肢がある中、この熊本高専を選んでいただきありがとうございました。教職員を代表してこころより歓迎の意を表します。皆さんは、これから始まる新しい生活に対する期待で胸を高鳴らせていることと思います。一方で、新しい環境に慣れることができるかという不安も感じていることでしょう。特に、ご家族の元を離れ寮生活を始める約百十名の皆さんの不安はひとしおではないかと思います。でも、大丈夫です。焦らず、友達を作って充実した毎日が送れるよう少しずつ慣れていってください。もし、困ったことがあったら遠慮なく先生方に相談してください。皆さんが立派なエンジニアになるための基礎をしっかり築けるよう、これからの五年間、私ども教職員ができる限りサポートしていきます。一緒に頑張っていきましょう。
さて、皆さんは「ものづくり」は好きですか。高専に入学、あるいは編入し、エンジニアを目指すわけですから、興味を持っている人は多いと思います。専攻科に進学する皆さんは、入学した時よりもっと好きになっているでしょう。自分が設計したものが、それが目に見える「もの」であってもソフトウェアやアプリであっても、思い通りに動いたら嬉しいですよね。それができたら今度はもっといい「もの」を作ろうと思うはずです。そうしていろんな「もの」の性能がどんどん向上していくことになります。でも、いったい何のために「もの」を作るのでしょうか。それは、例えば、人がしたら大変なことを代わりに行って人が楽になるためや、人が楽しくなるためなど、誰かのためだと思います。皆さんのまわりの人や大勢の人のために「もの」は作られるのです。しかし、一旦「もの」が作られ、次に性能の向上が追求され始めると、つい性能の向上そのものが目的になってしまう危険性があります。しかし、性能をもっと良くするのは、あくまでも、それを使う大勢の人たちが望んでいるからでないといけません。ひょっとしたら性能を上げることよりもっと大事なことがあるかもしれないのです。
一昔前、日本は「ものづくり大国」と言われていました。ところが「ものづくり」において、日本の立場がだんだん弱くなってきています。その理由の一つは、「もの」の価値を性能の良さだけで判断し、「もの」が人へのサービスのためにあるのに、使う側の気持ちや思いを考えるのが、やや疎かになってきたことにあるのではないかと考えられています。なので、最近は「ものづくり」より「ことづくり」という言葉をよく聞くようになっています。では、「ことづくり」のためには何が必要でしょうか。「もの」を設計製造し、性能を上げるために必要な工学の基礎知識だけではダメです。文系の科目、社会、文化、歴史、倫理など様々な学問にも触れて視野を拡げ、「もの」の意味や価値、つまり「こと」に関心を向けることが重要です。
今、私は、いったい何のために「もの」を作るのでしょうかと問いかけました。「もの」は、人のため、「こと」のために作るわけです。ですから、人の心や思いを想像できるようにならなければなりません。いじめや誹謗中傷など人が悲しむことを平気でできる人に、いい「もの」が作れるとは思いません。皆さんには、是非、人の気持ちに寄り添えるような思いやりを持った人になって欲しいと願っています。そして、そうなれるよう心がけて毎日を過ごしてください。
これまで、高専は日本の産業を支える人材を輩出してきており、社会から高い評価を受けています。そのため、海外でも高専の教育システムを導入しようとする国があり、モンゴルとタイには高専が設置され、ベトナムでは日本の高専が支援する教育が始まっています。そして、日本でもますます高専に対する期待が高まっています。熊本には台湾の半導体工場が誘致されることが決まっており、これを起爆剤として、熊本、九州、そして日本を発展させようという機運が盛り上がってきています。熊本高専にはその人材育成の中核を担うことが期待されています。その期待に応えられるよう、私ども教職員は頑張っていくつもりです。皆さんは、自分ができることにじっくり取り組みながら、高い志をもって毎日毎日を大事に過ごしてください。
これからの学生生活が皆さんにとってかけがえのない、楽しく充実したものになるよう心から願っています。
本日は、熊本高専へのご入学、編入学、そして進学、まことにおめでとうございます。
令和4年4月5日
熊本高等専門学校 校長 髙松 洋