入学式 校長式辞

2021.04.07

2021年度熊本高等専門学校本科入学生、留学生、編入生の皆さん、そして、専攻科入学の皆さん、本日は入学おめでとうございます。

本来であれば、熊本キャンパスと八代キャンパス合同で熊本県立劇場において入学式を挙行したかったのですが、コロナ禍のためにやむなくキャンパスごとに体育館で入学式を開くことといたしました。

ご来場の保護者の皆様にもお祝いを申し上げます。会場の関係で、誠に恐縮ですが、入場者数に制限を設けさせて頂きました。ご了承頂きますようお願い申し上げます。

昨年度は、キャンパスごとに別れての入学式すら実施できませんでした。今年度はこのような形での開催となりましたが、新入生の皆さんをお迎えする入学式を開くことができて嬉しく思います。

熊本高等専門学校には、熊本キャンパスと八代キャンパスの二つのキャンパスがありますが、

熊本キャンパスは、何と戦中の昭和18年(1943年)に財団法人熊本無線電信講習所として設立され、戦後の昭和24年(1949年)に熊本電波高等学校と改称され、昭和46年(1971年)に熊本電波工業高等専門学校となりました。

一方、八代キャンパスは、昭和49年(1974年)に八代工業高等専門学校として設置されました。

平成21年(2009年)10月には、熊本県にありましたこれら二つの高専が一つに統合されまして、独立行政法人国立高等専門学校機構熊本高等専門学校となり、翌平成22年(2010年)の4月にこの新たな熊本高等専門学校の一期生が入学しました。それから12年目の本日、入学式を迎えた皆さんは、熊本高等専門学校の第十二期生ということになります。

二つキャンパスがありますが、ここ数年、熊本高専は両キャンパス間の連携・協調がより円滑になり、学則をはじめとする各種規則の統一や、リベラルアーツ系の科目の統一、教職員の行き来などが進められています。

昨年度は、コロナ禍のもとで、遠隔講義や遠隔会議なども実施しましたので、その経験・知見に基づき、今後はICTも活用して、両キャンパス間の連携協働が益々進むと期待しております。

高専では、早い時期から専門教育を行なって、実践的かつ専門的な知識および技術を有する創造的な人財を育成することを目的としており、輩出してきた人財は、我が国の発展に大きく貢献してきたと高い評価をうけております。しかしながら、近年、社会の急速な発展に伴い、専門性と実践力のみならず、人間力や国際性も求められており、熊本高専でもそれに応えるべく教育の改革や改善を進めております。

とは言うものの、実は、昔から同じようなことは言われておりました。

九州大学の初代総長山川健次郎先生は百年以上前に、当時は、九州帝国大学ですが、その第一回目の入学式において、

「己が専門の学問の蘊奥を極め、合せて他の凡てのことに対して一応の知識を有して居らんで、即ち修養が広くなければ」ならないと述べられました。

専門を極めるだけでは足りなくて、幅広い教養が必要だとおっしゃっています。

この言葉は、山川先生の胸像とともに、九州大学のキャンパスに掲げられております。

先程、リベラルアーツ系の科目、と申しましたが、専門科目とは異なる哲学、歴史、芸術、自然科学、経済、語学などの教養科目のことですけれども、熊本高専では高専ならではのリベラルアーツに基づいた専門教育を目指しております。変化が激しい現代社会においては、異なる専門分野や文化や価値観の間での連携や協働が不可欠です。自らの専門を修めていることと併せて、幅広い教養や高い見識に裏打ちされた適用性や柔軟性が求められます。

本科に入学した皆さんは、中学を卒業したばかりの早い段階で、科学技術の世界に進もうと志しているわけですが、本科で5年間、専攻科まで進むと7年間という長い高専生活の中で、自分の専門分野や進路について悩むことがあるかも知れません。

それに関して、昨年の正月にたまたまテレビで観た塩野七生さんという方の言葉を皆さんに紹介いたします。塩野さんは、80歳を超えた、長年イタリアで暮らしていらっしゃる女性の歴史作家ですが、高校生相手の話の中で、

「あなたたちの年齢で将来何やりたいとか判る筈ないわよ」と、きっぱり断言なさいました。

また、「日本の行き詰まりの原因は、先を読まないとスタートできないことだ」とか「まず目の前にある山に登る。壁にぶつかったら考える。挫折や壁にぶつかることは若いうちにやった方が良い。あらゆるところが学びの場である。」ともおっしゃいました。

希望に燃えて熊本高専に入学したばかりの皆さんに今ここで申し上げるのがふさわしいかどうか少し気になりますが、実は、高専時代の成績が芳しくなくても、いくらでも挽回できるという具体的なデータに基づく調査報告があります。

高専生活の中で迷うこともあるでしょうが、個人的には、塩野さんがおっしゃるように、今、目の前のことを一所懸命やって、その分野を修める。その上で、さらにその先の長い人生で何をやるか考えるのも良いかと思います。一つのことを修めた後では、自分の視点も視野も違ってくるでしょう。

社会に出ると、自分が好むと好まざるとに拘らず、知識も経験もない新しいことをやらなければならないことがあります。その時、専門のことなら任せて下さい。でも、専門外のことはできませんでは務まりません。まったく新しいことに挑戦するにしても、それまでに習得した専門分野の知識や技術から得られる教訓や示唆はありますし、自分がそこまで到達した経験により身に付けた学ぶ力と自ら成長する力が、そして教養や見識が、皆さんの新しい世界を切り拓いてくれる筈です。

熊本高専では、進級に関する規則や指導の在り方などを見直して学生の学習ならびに成長を支援する体制をより充実させる検討を始めております。

塩野さんの話に戻りますが、彼女は「読書をしなさい、教養を身に付けなさい」ともおっしゃいました。やはり、塩野さんも教養が大事だと思っていらっしゃるわけです。

高専出身者は、我が国の発展に大いに貢献して高く評価されていることは前に述べましたが、近年では、日本の高専という教育制度は、外国でも大いに関心を持たれております。モンゴルでは日本式の高専が出来上がっており、本科卒業生も既に出ています。タイでは、2年前にタイ高専と我々が呼んでおります教育機関が設立されて、その翌年には2番目のタイ高専もでき、日本から沢山の教員がタイに派遣されて、タイ高専の立上げに協力なさっております。また、ベトナムでも日本式の高専の開設を検討しておりますし、インドネシアなども高専に大いに関心を持っているそうです。

このように、我が国の高専は、海外に積極的に展開しておりますが、逆に、我が国の高専自体の国際化にも力を入れております。

熊本高専では国際寮というものが、この6月に完成予定です。熊本キャンパスにできますが、八代キャンパスの学生・教職員とも一緒になって、長期・短期様々な留学生を受入れ、また、国際ワークショップやハッカソンやアイデアソンなどの多彩なイベントを熊本高専のみならず他高専や大学、また、企業などとも連携して実施し、学校内で日常的な国際交流や異文化理解などの活動を展開できるようになることを期待しております。

コロナ禍で世の中大変な状況で気が滅入ることも多い中、国際寮の活用について妄想を巡らすことが、最近の私の大きな楽しみとなっております。

高専では、高専ロボコン、プログラミングコンテスト、デザインコンペティションなどの全国的な大会、ワークショップやプロジェクト形式で開催される国内外の各種イベント、クラブ活動や高専体育大会、それに、オープンキャンパス、学園祭(高専祭、電波祭)、クラスマッチをはじめとする数々の学校行事などがあり、学生が主体となった多彩な活動を通して、貴重な経験をし、それによって成長するという特色があります。しかしながら、昨年度はコロナ禍のために、その多くが中止やオンライン開催になりました。

今年度は、コロナがどうなるか、変異株もありますので予断を許さない状況は続きますが、昨年度よりはコロナとの付合い方も解ってきて、これらの行事も万全の対策のもとに可能な限り実施したいと考えております。

皆さん、熊本高専で様々な経験をして、有意義な高専生活を楽しんで下さい。専門を修めて、どこに行っても自信を持って活動する逞しさと、豊かな教養と高い見識を持って多様な問題に柔軟に対応して活躍するしなやかさとを併せ持つ技術者・研究者へと成長して頂くことを願っております。

以上、校長の式辞といたします。

2021年4月5日
熊本高等専門学校
校長 荒木 啓二郎