入学式 告辞(2025年4月5日 髙松 洋)

2025.04.08

熊本高等専門学校の新入生、編入学生、留学生の皆さん、そして専攻科へ進まれる皆さん、入学または進学おめでとうございます。教職員を代表してこころより歓迎の意を表します。また、ご家族や保護者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。

本科に入学あるいは編入学される皆さんは、これから始まる新しい生活に対する期待で胸を高鳴らせていることでしょう。一方で、新しい環境の中でやっていけるかと不安に思っている人もいるでしょう。特に、ご家族の元を離れ寮生活を始める皆さんの不安は大きいのではないかと思います。しかし、焦ることはありません。充実した高専生活になるよう、少しずつ慣れていってください。もし、困ったことがあったら遠慮なく、先生方や友達に相談してください。先日、卒業した留学生が、最後の送別会の時の挨拶で自分の経験を振り返って後輩に言っていました。「自分が右も左もわからない初めての日本でやって来られたのはいろんな人の支えがあったからです。だから皆さん、人に頼ることを恐れないでください」と。私ども教職員も、これからの五年間、皆さんが立派なエンジニアになるための基礎をしっかり築けるようできる限りサポートしていきます。一緒に頑張っていきましょう。

専攻科に進学される皆さんは、これからの二年間、これまでの五年間で身につけた基礎をさらにレベルアップしていくことになります。さらに専門性を高めるとともに、研究を通して課題へのアプローチの仕方や解決の方法を学んでください。研究はうまくいかなかった時に一番いい経験ができます。何が問題なのかをじっくり見定めて次の一手を考える。これを繰り返していくと知らず知らずのうちに力がついていきます。ローマは一日にしてならずです。

さて、皆さんはどうして熊本高専に入学しようと思いましたか。将来、ものづくりに携わり人の役に立ちたいという高い志を持った人もいるでしょう。一方、そこまで深くは考えておらず何となくという人も大勢いるのではないかと思います。しかし、何も心配することはありません。私は長年大学で研究教育に携わり、今、こうして皆さんの前で校長として話をしていますが、私が皆さんの年齢だった高校の入学式の時のことを振り返ってみると、待ち受けている高校生活のことだけで頭の中は一杯で、将来のことなんかほとんど考えていませんでした。ですから、何も焦ることはありません。しかし、自分の将来のために皆さんは熊本高専に入学されたのですから、地道に努力をして五年間で成長しなければなりません。そのために大事なことを三つ言います。

一つ目は、自分でしっかり考える習慣をつけるということです。学校では、勉強してわからないことは先生に訊けばいいと皆さんは思っているでしょう。しかし、社会に出るとそうはいきません。ですからまず、原理原則から自分で考える習慣を身につけてください。ちょっと考えてわからないからといってすぐにあきらめないでください。頑張って考えてもどうしてもわからなければ、どこがわからないかをきちんと整理して人に尋ねるように心がけてください。入学後には、様々な社会の課題をみつけ、それを解決するための方法を考えるような機会もあります。その場合も、当然、まずは自分で考えることが大事ですが、自分では気づかない観点や考え方もあるはずです。ですから、いろんな人と議論し、ほかの人の意見もよく聞いたうえで、自分の考え方を整理することが重要です。そういうことを繰り返していくと、ものごとの考え方が身についていくと思います。

二つ目は、ものごとをゼロから考えるよう心がけるということです。ものごとの多くは、AであればB、BであればCというように、論理的に決まります。皆さんがこれまで取り組んできた問題も、前提が与えられてその答えを導くことが多かったのではないでしょうか。したがって、Aという前提そのものの妥当性を疑ってみることがなかったのではないでしょうか。しかし、そもそもAからスタートしていいのかを考える、すなわちものごとをゼロから考えることが重要なのです。それを判断するには、専門知識だけでは不十分です。様々な観点から、社会全体を俯瞰して観る力が必要です。そのためには、社会、文化、歴史、倫理など専門分野以外のことを学び、いろんな機会を積極的に利用して様々な人たちと知り合い、話をして自分の視野を拡げるようにしてください。そういうことを通して価値観やものごとの見方を自分の中で確立していくことが重要だと思います。

三つ目は失敗を恐れないことです。何かに挑戦して失敗することは決して恥ずかしいことではありません。むしろ失敗したほうが人は成長すると思います。先ほど、研究はうまくいかなかった時にいい経験ができると言ったのも同じ理由だからです。失敗を恐れてやらなかったことを後悔するより、やって失敗したほうがはるかにいいと私は思います。

最後にもう一つ皆さんにお願いしたいことがあります。それはいろんなことへの想像力を働かせて欲しいということです。新しいものを開発するには、それが使われるようになった時のことを想像する力、将来や未来を想像する力が必要です。ひとりよがりで、使う人たちのことを想像できなければ、多くの人に受け入れられるいいものはできないと思います。日頃の生活でも、まわりで辛い思いをしている人がいたらその人に寄り添いましょう。災害や戦争で苦しむ人たちのことをニュースで見たら、その人たちのことに思いを馳せましょう。学生生活の中では友達とトラブルになることがあるかもしれません。しかし、そこで自分の感情を不用意に無責任に発散するのではなく、一歩立ち止まって自分が逆の立場だったらと想像してみましょう。考え方や感じ方はひとそれぞれなので、他人の気持ちを理解するにも限界があります。しかし、少なくとも自分がその立場だったら、自分がその場にいたら、と自分に置き換えて想像することはできるはずです。なかなか難しいことかもしれませんが、是非、そう心がけて毎日を過ごしてください。これからの学生生活が皆さんにとってかけがえのない、楽しく充実したものになるよう心から願っています。

本日は、熊本高専へのご入学、編入学、そして進学、まことにおめでとうございました。

令和七年四月五日

熊本高等専門学校長

髙松 洋