入学式 告辞(2024年4月5日 髙松 洋)
熊本高等専門学校の新入生、編入生、留学生の皆さん、そして専攻科へ進まれる皆さん、入学または進学おめでとうございます。教職員を代表して心より歓迎の意を表します。また、ご家族や保護者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。
本科に入学あるいは編入学される皆さんは、これから始まる新しい生活に対する期待で胸を高鳴らせていることでしょう。一方で、新しい環境に慣れることができるかという不安も感じているのではないでしょうか。特に、ご家族の元を離れ寮生活を始める皆さんの不安はひとしおではないかと思います。でも、大丈夫です。充実した毎日が送れるよう、焦らず、少しずつ慣れていってください。もし、困ったことがあったら遠慮なく人に頼りましょう。先生方や友達に相談してください。これからの五年間、皆さんが立派なエンジニアになるための基礎をしっかり築けるよう、私ども教職員ができる限りサポートしていきます。一緒に頑張っていきましょう。
専攻科に進学される皆さんは、これからの二年間、これまでの五年間で身につけた基礎をさらにレベルアップしていくことになります。さらに専門性を高めるとともに、研究を通して課題へのアプローチの仕方や解決の方法を学んでください。研究はうまくいかなかった時に一番いい経験ができます。何が問題なのかをじっくり見定めて次の一手を考える。これを繰り返していくと知らず知らずのうちに力がついていきます。ローマは一日にしてならずです。
今、高専には多くの期待の眼が向けられています。半導体産業を支える人材、自分で業を起こすスタートアップ人材、情報を使いこなす情報系人材など、これからの日本を支える様々な人達を育ててもらいたいというリクエストが高専に来ています。私達はこういった社会からの期待に応えるべく様々な取り組みを行っています。本校は、台湾企業の進出で活気づき、全国から注目されている熊本にあるために期待が大きい半導体に関する教育では、既に二年前からすべての学科の皆さんが受講できる半導体入門の科目を開講しています。スタートアップ人材育成に関する教育では、まずは全員がチャレンジ精神を持ち、いろんな人と議論しながらアイデアを出すことが一番重要だと考え「熊本高専ファーストペンギンズプロジェクト」と名付けて取り組みを開始しました。そして、教室とは全く雰囲気が異なるすばらしいコワーキングスペースやファブリケーションラボを両キャンパスに整備しました。また、授業と課外の両方で、皆さんの創造性を高められるような取り組みも行っていきます。これから益々重要になる情報に関する教育についても、現在、計画中です。そのほか、独自のリベラルアーツ教育や、国際交流活動にも力を入れています。学生の皆さんを巻き込んで小中学生に科学の面白さを伝えるイベントも数多く行っています。このように、皆さんの将来のことを第一に考え、皆さんが自分のポテンシャルを上げられるような機会を数多く設けていますので、是非、多くの皆さんの積極的な参加を期待しています。
さて、皆さんはどうして熊本高専に入学しようと思いましたか。将来、ものづくりに携わり人の役に立ちたいという高い志を持った人もいると推察します。一方、そこまで考えてない人も大勢いるのではないかと思いますが、何も心配することはありません。私は長年大学で研究教育に携わり、今、こうして皆さんの前で校長として話をしていますが、私が皆さんの年齢だった高校の入学式の時のことを振り返ってみると、待ち受けている高校生活のことだけで頭の中は一杯で、将来のことなんかほとんど考えていませんでした。ですから、何も焦ることはありません。しかし、学生生活を送るにあたりいくつか大事なことがあります。学校では、わからないことは先生に聞けばいいと皆さんは思っているでしょうが、社会に出るとそうはいきません。ですから、とにかくまず、自分で考える習慣を身につける努力をしてください。ちょっと考えてわからないからといってすぐにあきらめずに、頑張って考え続けるようにしてください。大事なことの二つ目は、人の意見や考え方をよく聞くことです。どんな問題にでも様々な見方があるはずです。他の人の意見をよく聞いて、それを自分で考えて理解することを繰り返すと、ものごとの考え方が身についてきます。三つめは、ものごとをゼロから考えるよう心がけることです。ものごとの多くは、AであればB、BであればCというように、論理的に決まります。皆さんがこれまで取り組んできた問題も、前提が与えられてその答えを導くことが多かったのではないでしょうか。したがって、ついAという前提が正しいかどうかを考えないままでいたことはありませんか。そもそもAからスタートしていいのかを考える、すなわち、ものごとをゼロから考えることが重要なのです。それを判断するには、専門知識だけでは不十分です。様々な観点から、社会全体を俯瞰して観る力が必要です。そのためには、社会、文化、歴史、倫理など専門分野以外の学びを通して価値観やものごとの見方を自分の中で確立していくことが重要だと思います。今、三つ申し上げたように、何事も自分でじっくり考えるという習慣を身につけて欲しいと思います。
もう一つ皆さんにお願いしたいことがあります。「もの」は、人のため、「こと」のために作るわけです。ですから、人の心や思いを想像できるようにならなければなりません。いじめや誹謗中傷など人が悲しむことを平気でできる人に、いい「もの」が作れるとは思いません。皆さんには、是非、人の立場に立ってものごとを考え、人の気持ちに寄り添えるような思いやりを持った人になって欲しいと願っています。そうなれるよう心がけて毎日を過ごしてください。これからの学生生活が皆さんにとってかけがえのない、楽しく充実したものになるよう心から願っています。
本日は、熊本高専へのご入学、編入学、そして進学、誠におめでとうございました。
令和6年4月5日
熊本高等専門学校 校長 髙松 洋